この線からこっちは、わたしの陣地だった。
棒切れで砂の上に線を引いて向かい合う。
こどもだったころ、わたしたちはこうしてお互いの居場所を主張し合った。
教室の机の境目、グラウンドの硬い地面に引かれた頼りない白線。
どれもふたりの狭い世界をきちんと隔てていた。
あの線を踏んだのは彼だ。
頑なな境界線はいとも簡単に踏み越えられてしまった。
それで、あのときわたしは怒ったのだったか。
歪んだ線をつま先で弄びながら、彼がわたしの名前を呼ぶ。
許したのは君じゃあないかと責めるように。
そうだ、そうだ。
肩を押し合い小さな世界から押し出すゲーム。
線は知らぬ間につながっていて、そして円になっていた。
「ねえ、ぼくたちは抱き合わないと」
こんな狭いとこで生きていかなきゃならないんだから。
明日も降りそうにない雨は、どうにか線を掻き消してみせた。
( ぼくらの国境 )
Words:やまもとさん https://twitter.com/yama27__
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