オーダーから程なく所望の品が運ばれて来た。
ふんわりと芳ばしい香りを胸いっぱいに吸い込む。
思わず溜め息をついた。
琥珀色のそれに泡立てた乳白色が混じり合い淡い色合いに変わる。
そこへ小さな角砂糖をひとつ入れると泡に呑まれてすぐに見えなくなった。
スプーンで混ぜてみたものの、硬い砂糖の塊は中々溶ける様子をみせない。
仕方なくそのままカップに口をつける。
うん、苦い。
平日という事もあってか、お気に入りの席に座ることが出来た。
なんだかラッキーだなとにんまりしながらカメラを手に取る。
この穏やかな空気を収めよう何度もシャッターを切る。
今日も眼鏡をかけずにファインダーを覘いている。
いつもの事だけど、上手く撮れている気がしない。
それでもカシャカシャとまだ聞き慣れない音が耳に心地よい。
買ったばかりのレンズも何故だかとても様になっている気がした。
一通り撮り終えて満足すると一人掛けのソファーに深く腰掛け、背凭れにうな垂れた。
大して歩いたわけでもないのに珈琲の香りで
心も体も緩く解けたみたいだった。
流れるジャズの音と右から左へ流れていく人の話し声、
何を聞くともなしにぼんやりと煙草に火を点ける。
深く吸い込んで静かに吐き出す単調な作業を繰り返しながら
燻る煙りに視線を合わせる。
トントンとガラスの受け皿に灰を落とす手。
不思議だ。
何度も頭の中でそう呟いた。
カップに手を伸ばし、まだ温かいラテに口をつけると甘ったるい味が口いっぱいに広がる。
角砂糖は時間をかけてゆっくりと溶けてくれたようだった。
無理して急いだっていい事ないよね、人生と同じだ。
そんな事考えながらまた煙草に火を点ける。
吐き出した煙は午後の弱い日差しに当たって
灰色をしていた。
甘い甘い君とほろ苦い僕とお砂糖みたいな物語。
そんなある日。